ZAPPING Valentine──特別篇兄サイド ピン、ポーン・・・ 日も暮れようとしていた午後4時、突然玄関の呼び鈴が鳴る。 「はーい・・・」 あわてて玄関の鍵を外し、ドアを開けると、そこにはたくさんの荷物を抱えた杏奈と若菜が立っていた。 「ただいま、お兄様」 杏奈が微笑みかけてくる。こちらの驚いた表情がおかしかったのか、若菜がくすくす笑っている。 「──二人ともおかえり。帰ってくるなら帰ってくるって、連絡してくれればよかったのに」 そういうと、杏奈がいたずらっぽく微笑む。 「ウフフッ、ゴメンナサイ。でも今日は、ちょっぴりお兄様を驚かせてみたかったの。──はい、これ」 ![]() 「えっ・・・?」 「いやぁねぇ、お兄様ったら。今日は2月14日──バレンタインデーよ。お兄様のために心を込めて作ったチョコ、受け取ってもらえるかしら?」 「あっ、お兄ちゃん。若菜も・・・お兄ちゃんのことを想いながら・・・一生懸命作りました。初めて作ったからあんまり上手にできてないかもしれないけど・・・受け取って、くれますか?」 「このチョコ、若菜の手作りなの?」 「はいっ♪」 「そっか、ありがとう、若菜」 若菜の頭を撫でると、若菜が顔を赤らめて恥ずかしそうに俯く。それを見ていた杏奈が一瞬面白くなさそうな顔をするが、何かひらめいたような表情を浮かべると、バッグの中からなにやら取り出す。 そして異様に長いそれを、僕と若菜の首にそっと巻いた。若菜が驚いて杏奈の方を見る。 「わっ、アンナちゃん、これ・・・?」 「ウフフッ、驚いた? このマフラー、お兄様とわたしと若菜の三人でくるまれるように、かなり長めに編んだから、とっても苦労したのよ」 そういいながら杏奈がマフラーにくるまりながらこちらに寄り添ってくる。 「でもこれ・・・一人でするには長すぎないか?」 若菜の肩にかかっていたマフラーの端を持ち上げながらそういうと、杏奈がもう一本のマフラーを取り出した。 「ちゃんとお兄様用のも編んであるわよ。はい」 杏奈が長いマフラーの上からさらにマフラーを巻いてくる。 「あっ、若菜もお兄ちゃんに手袋編んできたんです。お兄ちゃん・・・手を出してくれますか?」 「え? あ、うん・・・」 言われるままに手を差し出すと、若菜が僕の手をとって、緑色の手袋をはめてくれた。 「それと、はい、これも若菜が編んだんです」 僕の頭にニット帽をかぶせようとして、若菜が背伸びをしながら両腕を伸ばす。 「・・・きゃっ!」 マフラーにもつれたのか、若菜が僕の胸に倒れ掛かってくる。抱きとめるように背中に回した腕の中で、若菜が顔を真っ赤にしてこちらの顔を見上げ、あわてて謝ってきた。 「ごっ、ゴメンナサイ、お兄ちゃん」 「い、いや・・・大丈夫だよ。それより若菜こそ大丈夫?」 「はっ、はい・・・ 大丈夫です・・・」 「そっか、よかった。それより今日は泊まっていくんだろう? 早くうちにあがりなよ」 「そうね。それじゃあお兄様、お邪魔するわ」 「お邪魔します、お兄ちゃん」 「二人とも、自分の家なんだから遠慮しなくていいんだよ」 「えへへ・・・そうでした」 若菜が首をすくめながらぺろっと舌を出した。 二人をダイニングキッチンに通すと、二人は久しぶりに帰ってきた我が家を珍しそうに見渡している。 「へーっ、何も変わってないのね」 「あはは。特に何もいじってないからね」 二人にミルクココアを差し出すと、よほど寒かったのか、二人は争うように自分のマグカップを手に取った。 「やっぱりお兄ちゃんが入れてくれたホットココアはすごく美味しいです」 マグカップを置いた若菜が嬉しそうにいう。対照的に杏奈は難しそうな顔をしている。 「お兄様・・・、このホットココア、まさか他の女の子からもらったチョコレートを溶かしたものじゃないでしょうね?」 「あはは、これは昔から杏奈と若菜と一緒に毎朝飲んでいたココアだよ。味覚は杏奈より若菜の方が憶えているみたいだね」 情けない話だが、杏奈と若菜にもらったチョコが今日初めてもらったチョコだったりする。 「それより二人とも、今日はチョコをありがとう。実は僕からも二人に渡したいものがあるんだ」 「えっ、もうお返しくれるの?」 「お兄ちゃん、ホワイトデーは一ヵ月後ですよ。若菜たちが受け取りにこられるかどうかわかりませんけど・・・」 二人が少し慌てたように言う。なるほど、本気で忘れているようだ。 僕は二人の声を聞き流しながら冷蔵庫に入れてあったそれを取り出し、二人の前に置いた。そして箱を開いて中身を取り出す。 「えっ、これって──」 ようやく思い出したのか、杏奈が少し驚いたような声を出す。僕は微笑みながらうなずいて、二人にそっとキスをした。 ──Happy Birthday,Anna,Wakana・・・(杏奈、若菜、お誕生日おめでとう・・・) ≪オマケ≫ その夜、僕達は一番広い部屋で、フトンを並べて三人で寝ることにした。最後に二人と別れた夜に、杏奈と約束したことがやっと叶えられそうだった。 「それじゃあ電気を消すよ。おやすみ、二人とも」 「あっ、待って、お兄様」 杏奈がフトンから起き上がり、荷物をガザゴソと漁りだす。 「忘れるところだったわ。はいっ、若菜。わたしからのバレンタインチョコレート。受け取ってくれる?」 「えっ、アンナちゃん・・・」 若菜が少し驚いたように手で口を押さえる。 「愛してるわよ、若菜」 杏奈が極上の笑みを浮かべると、若菜もまた最高の笑顔を見せる。 「ありがとうございます、アンナちゃん。実は・・・若菜も、アンナちゃんにバレンタインチョコレート作ってきたんです」 「ほんと?」 「はいっ♪」 若菜がチョコを差し出すと、杏奈は若菜の体を抱き寄せた。 「やっぱり若菜って、最高の妹だわ」 「若菜も、アンナちゃんの妹でよかったです」 |